SCQRMベーシック編
ライブ講義
質的研究とは何か
西條剛央
今回の発表で私たちの論文に照らし合わせる点
「リサーチクエスチョンの確認」
第4回 研究テーマとリサーチクエスチョンを考える
研究をやってみよう
先生:質的研究法を「使える」ようになった方がいい。
生徒:「何かやりたいと思う」
先生:「やってみないとわからない。この授業を通して一つの研究をやってみよう」
生徒:「これからみんなで教育実習をやっていくので、それをテーマにしたい」
先生:「その方向で」
質問紙法について
生徒:「インタビューをやってみたい。質問紙法もしたい。卒論で取り組んだがダメ出しされて・・。実際データにもできなかった」
先生:「質問紙法は量的研究として代表的な方法。しかし相当難しい」
質問紙法のよい作り方
1.インタビューして質問項目をボトムアップして質問項目を作り上げる
*ボトムアップ:下からの意見を吸い上げて全体をまとめていく管理方式
2.必ず予備調査をして、何人かに答えてもらう。
3.意見を取り入れ、改善して調査する。
生徒:「予備調査もきちんとしたけど、何度もダメ出しされて、いける!と思ったのに想定外の答えで、データにならなかった」
先生:「結構難しいよ。なので専門の人に指導してもらうことも大切。数量的研究は統計モデルによってどういう質問紙を作ればいいか変わってくる。ただ、今回は質的研究なので、違うタイプの研究法でいこう!」
リサーチクエスチョンの方向性の提案
先生:「質的研究は「内的視点(実際のやりとり)」を重視することが必要。」
質的研究は、人々の内的側面、意味世界の様相やその変化を捉えるのに向いていて。事実の話にはあまり向いていない。
実習に参加した人数・実習への参加頻度・・・事実
1年後、実習についてどう考えているか?・・・内的側面
リサーチクエスチョンについて考える
(関心・論点・問題を研究するテーマ)
*論文を書く際、この「リサーチクエスチョンを立てる」というのが難しい。
リサーチクエスチョン:
実習の過程で感じたストレスや葛藤に着目。
対象者:昨年の実習経験者もしくはそれ以前の方
概要:実習では、実習生がグループでまたはペアで活動することが多く、そうした協同作業では自分の意見だけではなく、仲間の意見を尊重しながらよいものを作ることが求められる。一人ひとりが持っている力を合わせて、1+1が2ではなく、3にも4にもなることを目指しているが、意見を言い合って前に進むときには、仲間の意見に反対するような意見も言わなければならず、また、自分の意見に反対される場合もある。そうした過程の中には葛藤があり、その葛藤から新しい何かが生まれてくる。今回は質的研究を用いて、その過程において、どのように感じているのかを明らかにしていく。
方法:各実習生が実習中に考えたことや感じたことを文章化し、週1回書いて提出する内省レポートを元にして進める。
(ただ、内省レポートに、ストレスという自己開示に関する言及がどこまでされているか不明。)
先生コメント:「ストレスについて限定しない方がいい。」
先行研究:その過程において四つの分類に分けるという質問紙法で行われている。
SCQRMの選択原理・・・関心相関的選択
研究の技法の【決め方】→リサーチクエスチョンを決めて、それにあった技法を選ぶ。
みなさんのリサーチクエスチョンにあった技法を選ぼう!
SCQRM・・構造構成主義的質的研究法(p4参照)
SCQRMはツールである。
ツールとは、①特定の状況で、②何らかの目的で 使われるもの。→方法と呼ぶ。
関心相関的視点によれば、方法の価値は目的と相関的に決まる。(p5「方法っていうのは目的を達成するための手段だから、僕らの関心や目的といったことと無関係に、絶対に正しい手段なんてものはありえないよね。当然理論も方法もツールだから目的に応じてその価値が決まる側面がある。」
結果、全てのツールは、①現実的制約を勘案 ②リサーチクエスチョンや研究目的に照らして選ぶ。
→【関心相関的選択】(できることを予め自分で理解し、ツール(方法)を選ぶ)
関心相関的選択を先のリサーチクエスチョンに照らし合わせると・・・
1.昨年までの内省レポートを分析
2.昨年まで実習を受けた人を対象にインタビュー
3.それらの組み合わせ
この三つの中からリサーチクエスチョンにあった方法を選ぶことになる。
「ストレスの影響があるのかないのか」は、典型的な客観主義的パラダイム(大きな概念)で、圧倒的に数量的アプローチに向いている問いである。
→「本当に?」の追究に弱い。
生徒:「だから先ほどの先行研究は四パターンに分類されていたのか。ではダメですね。」
先生:「ダメではなく切り口を変えてオリジナリティを出してみては?」
素朴な実感から切り口を考える
生徒:「内省レポートは、実習に役に立つというポジティブな面に日が当たりがちだが、実はなかなか思うように筆が進まないというネガティブな面もある。」
先生:「それはいい切り口。切り口が斬新だと、まずやっている人が少ないから何かと有利であるし、そういう現実をしっかり踏まえた研究の方が、当該領域の発展に貢献する。」
生徒:「内省レポートは自分を振り返る機会になっていいと思うが、先輩の中には、だんだん回を重ねるにつれて日記みたいになってきて、考えることをしなくなったという人もいる。」
先生:「それがまさしく「今だから言えること」であるし、その切り口から「過去のことだから話せる本音や今になって思うこと」に迫ればいい。おもしろい。」
生徒:「わくわくする」
先生:「わくわくするっていうのは大切なこと。自分がおもしろいと思えない研究はがんばれないから」
http://designthinking.dangkang.com/scqrm/より引用
オリジナリティのある研究をするコツ
先生:「質的研究は、「確実さ」というところで勝負すると弱いから、「オリジナリティ」というところで勝負するとよい。」
オリジナリティ
1.新しい現象を扱う
2.先行研究と「アプローチ」を変える
3.同じテーマでも「着目するところ」や「切り口」、「問い方」を変える
オリジナリティのある研究をしていますか?
効率よく研究をするコツ
先生:「もし同じような研究が一つくらいあっても、それはそれでいい。オリジナルの研究をするコツは、先行研究をたくさん調べなくていいコツでもある。」
「この方法のいいところは、自分の研究に焦点化できるから、関係ありそうなもの、似た現象を扱っているもの、似たような結論を言っているもの、あるいは似た技法を使っているものとかに絞って調べればいい。そうすると効率が上がり、修士3年にならなくて済む(筆者談)」
効率よい調べ方はどのようにすればいいでしょうか?
具体的なデータ収集法
生徒:「全員がいるところでは率直に話をしてくれないので、立ち話なんかで聞いたらいいと思うのですが、それは無断でデータにすることになるのでアウトですね。ではやはり授業に来てインタビューという形でしょうか。」
先生:「立ち話よりインタビューしたほうがいい。しかしみんながいる場所では話しにくいので、一対一で。喫茶店などでもいいです。」
生徒:「ただ、在学中だと微妙な立場なので、中立的データがとれないと思う。」
先生:「確かに。しかしそれは大丈夫。どんな人でも純粋に客観的で中立的なデータは原理的には取れないので。質的研究で大事なのは、「どういう人を対象にしたか」を明らかにしていくということ。つまり、どういう条件のもとでとったデータかを開示していけばいい。あとは誘導しないこと。」
生徒:「試験的に1.2名を対象にしたパイロット(試験的に行う)インタビューはする必要ありますか。」
先生:「できればした方がいい。質問項目を足したり調整したりすればいい。」
みなさんのデータ収集法は?
思い入れを抑えることの重要さ
先生:「研究のコツは、今持っている思いを抑えて進めていくこと。それが研究者にとっては説得力のある研究につながる。「熱い思い」はおいといて、読み手に「冷静に研究しているな」と思えるように研究をすることが、他の研究者を説得する上で一番の近道である。」
研究テーマに「思い込み」はないですか?
第5回 グループディスカッションの実施
先生:「リサーチクエスチョンの明確化のために、前回出た「内省レポート」に関してディスカッションをします。」
内省レポートに関する違和感
生徒:「内省レポートは、基本的には読者を意識しないもの。書く者の考え方が違うので、完全の自分だけのものと思う人と、共有しないとダメなのではという人がいる。<内省レポートの位置づけの多様化>」
生徒:「私はやっつけ仕事になっている。<ルーティン化>」
生徒:「共有しようという話も出たが、それは何か違うような・・・<閲覧範囲の拡張に関する違和感>」
生徒:「内省レポートをみんなが気を遣って書いているのであれば、内省レポート自体が、教師の成長を見ていく資料として限界がある<教師成長をみるリソースとしての部分的限界>」
内省レポートには、何か見えない枠組みがあるのでは・・・
内省レポートの効用
生徒:「内省レポートは、自分を理解するよいきっかけとなっている。<自己理解の促進>」
生徒:「机に向かって書くと、あれはこうすればよかった、こういうことをしてみればよかったなど考える。<考えるきっかけ>」
生徒:「他の人が書いた内省レポートを読めることのメリットはあり、「この人こういうこと考えていたんだ」など、仲間を理解できるのはいい。<他者理解の促進>」
生徒:「私は、他の人のレポートを読んで、こういうことについても内省できるんだと、自分のポイントが増えた。<内省ポイントの増加>」
建設的なリサーチクエスチョンを立てる
生徒:「内省レポートが実習生の中でどのように位置づけられていて、かつ肯定的な側面、否定的な側面などをバランスよく見られた方がいい。」
先生:「みんなが感じている違和感の部分をはっきりさせることで、より機能的なものに改善できる。閲覧範囲を選択制にするなど建設的提案に繋がるかもしれない。」
「見えない枠組みを見えるように、つまり、教育方針という枠組みを理解しなければならない。また、内省レポートでは、さらけ出せない自分を変えていくという役割があるのかもしれない。そうだとしたら、どういうスタンスでかけばいいかわからなくて混乱している人には、その部分を整理するきっかけになるかもしれない。」
次回までの課題を考える
先生:「話し合いをして、内省レポートのポイントになりそうなことがいくつかでてきた。」次回は今日の話し合いを文字起こしして、分析をする。」
第6回 テクストから概念を作る~質的分析法の概観~
先生:「今日は、分析の第一歩、テクスト分析から理論を作り出すまでの概略を説明します」
分析の基本原則
【森から木の原則】細かいところからするのではなく、全体から見て行う。
【とりあえずの鉄則】探索的な質的研究は、その都度その都度これでいいと思ったら「とりあえず」進める。
色を使いこなす
直感的な把握ができることと、認識の次元を増やせるため。
使うコツ
最初から濃いペンを使わない。
最初から太いペンを使わない。
*重要な箇所は、他と比べてから重要とわかるわけで、後からわかる「重要な箇所」に濃いペンを使う。
重要だという箇所に自分の好きな色を使い、重要ではない部分には好みでない色を使う。
色が足りなくなっても前の方で使ったものを使えばいい。
分析情報の概説
実際やってもらうこと
ざーっと読んでいき、キーワードのようなものを探す。
誰かがしゃべっているセンテンスや単語にペンでマークをしていく。
大事なところは太いペンで塗っていく。
部分がわかればその範囲をペンでグルーッと囲って冒頭に見出しをつけていく。
→今回はM-GTAを使っていく。
それぞれの作業のやり方と感想
生徒:「たぶん一回目にやったのがよくなくて、また何回も直さなければいけない」
生徒:「グループ分けをしていると、内省レポートの中にも細かいのがいっぱい出てきて、ちょっと色分けに失敗した。」
生徒:「取り上げることが多くなって、どこかで絞らなければならないということもあるとおもうのですが、すごいたくさんになってしまった。」
何度か見ていくなかで、その点をうまく区分けして、テクスト全体を構造化していけるとよい。
テクスト分析の解説
先生:「それぞれ考え方が違うので、完全に内省レポートは自分だけのものでしょと思う人と、いやいや、みんなが考えていることを書くものだから共有しないと、ダメなんじゃない?という人がいて」という台詞があった。これを概念化するということ。」
GTAの基本的な概念
テクストに基づいて、データにグラウンデッド(基底・根拠)に概念生成していくということ。
先生:「で、こういう風に思っている私は、内省レポートに、内省レポート自体について内省した文章を書いたことがないんですよ。でもそこって、実際に引っかかっていることだから、内省すべきポイントに入ってくるかもしれない。あとの「見えない縛り」という言葉をそのまま概念名にした。」
*概念名をつけていく
先生:「内省レポートの肯定的な側面が語られていて、というように話題が変わっていく」
*概念名を出していく。
暫定的なモデルを作る
図
M-GTAの分析プロセスの概観をつかむ
キーワードとキーセンテンスの選定とそれへの名付け
パラグラフに分け小見出しをつけることによる構造化
暫定的な全体像やモデルの素描
第7回 対象者をどのように選べばよいか?
~関心相関的サンプリング~
「数」は関係ない?
先生:「リサーチクエスチョンは、「実習生は内省レポートについて、肯定的。否定的側面を含めて、どのような体験をしているか」であるため、今回の研究は量に縛られず、質的研究のメリットを最大限活かす問い方になっている。なので、新たな視点の提示がちゃんとできていれば数は必要ない。」
生徒:「数が関係ないというのが理解できない。」
先生:「今回の研究が、「内省レポートの提出率や平均枚数といったことを実態調査的に調べる」であれば、3人では確実にアウト。しかし、今回のように内省レポートを巡る体験そのものを問い直すことで内省レポートのとらえ方を変更できるような新たな視点を出すことができれば、極端な話、一事例でもいい。」
→目的が実態調査ではなく、質的な視点の変更にあるため。
人数はどのくらい必要か?
生徒:「では、人数は2人でもいいということですか?」
先生:「それは微妙な問題。原理的には数が必ず必要ではないが、実際問題質的研究といえども事例が少なすぎるということは言われても事例が多すぎるといわれることはない。人間は、量的な増加が信憑性を高めることを経験しているから。今回は3人でいきましょう。」
関心相関的サンプリング
生徒:「それではその3人はどうやって選べばいいでしょう?」
先生:「大事な問題。」
対象者選択に関わる方法論
「理論的サンプリング」=SCQRMでは【関心相関的サンプリング】(自分の関心に照らして対象者をサンプリングする)
先生:「実習経験者の本音を知りたいのに、実習を受けたことがない学生を捕まえても仕方がない。あくまでも研究目的に合った人を選んでいく。」
生徒:「毎年の「実習報告書」に内省レポートが載っているのでだいたい「この人は批判的な人だな、肯定的な人だな」と主観的にわかる。」
先生:「過去の内省レポートを判断材料にもでき、バランスよくデータをとるというのが一つの方法。」
関心相関的選択(サンプリング)の実践
先生:「今回は、3人しかデータを取れないため、内省レポートについて「肯定的な人」「否定的な人」「中間にいそうな人」を選べばいいのでは。」
生徒:「中立っていう選び方が難しいのですが。」
先生:「典型的な「肯定」と「否定」を選んで初めて中立が成り立つから、だいたいその間くらいかなぁという印象の人を選べばよい。」
対象者の仮名を考える
先生:「対象者は本名で呼ばないように、それぞれのインタビュイー(対象者)の仮の名前を決めましょう。」
生徒:「Aさん?大文字?」
先生:「スモールエーさんてのはあまり見たことない。実際にAさんという名前の人はいないから、イメージがわきにくいということで敢えて名前をつけることもある。全然違う名前で。」
生徒:「イメージできないですね。確かに。」
先生:「ヒントのない全く違う名前をつけたいけれど、みなさんにとって直感的に誰かわかる方がいい。」
生徒:「中立な人は中立ぽい名前で。中田さん」
先生:「いいんじゃないですか。」
生徒:「肯定的な人は、ヨシイさん。イは井戸の井で吉井さん。」
先生:「勝手に決めてるし。」
生徒:「最後、否定的な人は、厳しい寒さをイメージして、北川さん」
生徒:「影山さん」
先生:「ちょっとネガティブすぎ」
生徒:「オサナイさん」
先生:「ちょっとひねりすぎ。北川さんでいきましょう。次回までに質問項目のたたき台を作って、インタビューの方法について学びましょう。」