24.教育と研究

シャープ特選工業奥野社長講演逐語録

次の講演は「企業が求める力、そして企業ができる定着支援」ということで、シャープ特選工業株式会社取締役社長の奥野哲啓先生をご紹介いたします。

奥野先生の略歴は、1981年にシャープ株式会社に入社、天理の研究所、葛城の事業所の中で、太陽電池事業を約30年間携わられていらっしゃいました。2012年6月より、現在のシャープ特選工業株式会社の十代目社長となり、現在3年目となります。発達障害者を含めた障害者の就労支援、そして就労の定着に日々ご尽力をなさっています。

本日は企業が求める力、そして企業ができる定着支援についてご講演をいただきます。それでは奥野先生、よろしくお願いします。

シャープ特選の奥野と申します。よろしくお願いします。
大学を卒業して30年以上たっているのですが、久しぶりに大学キャンパスに来させていただく機会をいただき、楽しみに来ました。名古屋教育大学には2つ思い入れというか、感じるところがあって、一つはシャープに入社した年にこの近くで間借りをして1年間を過ごしました。当時は独身だったので女子学生さんを楽しみにこの辺を散歩していました。もう一つは娘がここを受験して残念ながら落ちてしまいました。もう少し早く先生と知り合いになれたら良かったのかなぁ(笑)と思ったりしています。

本題に入ります。今日はこういうお題でお話をさせていただきたいと思います。
まず特選工業という会社の概要ですが、場所は大坂の阿倍野区、ヤンマースタジアムの近くにあります。設立は1950年と60年以上前に設立をしています。従業員は現在100名で、うち障害者が58名。健常者と障害者が4対6くらいの比率の会社です。シャープ株式会社の特例子会社の位置づけです。1976年に特例子会社の制定がされて、1977年3月に第一号として認定された会社です。今は全国に391社、特例子会社があり、奈良県は1社だけです。

シャープ株式会社の早川徳次さんが創業者。早川さんは小さな時に恵まれた環境ではなかったが、近所の盲目のおばあさん、井上さんという方に非常に世話になり、仕事を頑張っていつか恩返しをしなければならないという思いをもっていました。それを障害者雇用という形で実現しました。特選工業は最初視覚障害の人たちが中心となってスタート、現在は視覚障害の方は雇用していませんが、早川さんの思いが詰まった会社となっています。
1950年から1977年まで、20年以上、特例子会社の制定がない中での障害者雇用を実現してきた会社です。早川さんは働けるにもかかわらず、障害があるだけで雇用されないのはおかしいのではないかという思いがあり、働く場を提供することが一番大事ではないかと思われていたそうです。
現在キャリア教育支援という活動をさせてもらっています。これは1人でも多くの就労を支援するものです。

特選工業の障害者58人のうち、半分が聴覚障害、4分の1が肢体障害、成人・発達が13%くらい、知的の方が5%くらいです。特徴は障害によって仕事を区別したりせず、いろいろな業務をやっていただいていることです。
業務の内容は大きく分けて生産系と非生産系に分けています。生産系は親会社の国内生産の一部分を受けています。具体的に言うと生産系は、家電製品、冷蔵庫のコンプレッサー部分の組み立てをしています。もう一つは電子部品で液晶パネルを遠隔で回路修正をしています。非生産系は印刷や清掃、書類の電子保存などをしています。

企業の考え方と企業の求める人材、こういう人がほしいということについてお話したいと思います。一般的な企業の考え方で一番大事だと思うのは会社が存在し続けること。それは社員の雇用を維持するということです。利害関係者、つまりステークホルダーを6つ考えて満足させるための取り組みを行います。例えば、株主や社員、取引先、物を売るビジネスだとお客さまがそれに当たり、満足させることで企業存続を考えます。

障害者雇用については、一般論で4つ必要だと言われています。1つは社会的使命、CSRの観点で障害者雇用の必要性を考える。あとは経営上のメリット、少子高齢化で労働力不足への対応、実利的メリット、社内風土の健全化、例えば障害者と一緒に働くという職場の雰囲気の健全化を考え、雇用を考えています。

特に弊社の場合は、社内風土の健全化を目標にしています。具体的には、社内の雰囲気が変わります。思いやりが生まれ、チームワークがアップし、仕事の質が向上します。
2つ目は人材育成のノウハウが形成されます。仕事の教え方、サポートの仕方、話し方、相手にきちんと伝わっているかなどを確認しながら行う必要があります。人材育成能力がアップします。相手を見る目も養われます。
3つ目の働きやすい作業環境というのは、バリアフリーも含めて働きやすい環境整備ができるのではないか工夫をする雰囲気が生まれてきます。こういうことが会社の中で芽生えてくるので健全化が図れるのではないかと考えています。
結果として障害者が働きやすい職場というのは障害者だけでなく、みんなが働きやすい職場とイコールではないかと思っています。

企業が求める人材に話しを移します。
「働きたい」「働かなければいけない」という強い意志をもっていることが一番に挙げられます。強い意志をもっている人は社会資源を利用する時に本音の部分で話ができて、支援をする方とも共通の認識が取りやすく、いい回転がしていくと思います。強い意志を持っている人が一番ほしい人材です。

さらに具体的に言えば、コミュニケーションができること。「わからないことはわからない」「困った時は困った」と発信できることが大事です。次に「責任感があること」。自分から発信をしてほしい。「不言実行」と言われるが、「有言実行」がいい。「やるぞ-」と発信すること。素直さも大事。まずは「やってみる」タイプの人が企業としてはほしいです。基本行動が身についている人については、まずは「あいさつ」。コミュニケーションの1つですが、自分から発信、声を出すこと。2番目の規則正しい生活については、健康、体力面で規則正しい時間に食事を食べるとか、家を出るとかできる人のことを言います。みんなと協力できる、独りよがりにならない、困った時は助けを求める。こういう基本的な行動が身についている方をほしいです。

日頃、我々が感じていることをお話したいと思います。
「コミュニケーションが必要だと感じた事がありますか」とアンケートをとったところ、90%の人が必要だと感じていました。「どんな時か」と掘り下げると「自分の考えと人の考えが違う時」「相手に教える立場になった時」などに感じたといいます。
同じ人たちにアンケートで「学生時代にコミュニケーションが必要だと感じていましたか」と聞いたところ、5%しかいなかったのです。掘り下げて聞くと「伝えるだけでいいと思っていた」「会社に入れば身につくものだと思っていた」というのです。残念ながら会社でコミュニケーション能力は行動を起こさないとつきません。企業としては「コミュニケーション能力が身についている人がほしい」。入社前に身に付けられる工夫、訓練が必要だと思います。

弊社は障害者の人を職場体験実習で受け入れていて、感じていることを挙げたいと思います。
1つは、思い込みの排除を感じます。できる、できないは、やらしてみないとわかりません。「この人には無理」と思っていても案外できる場合があるものです。
先日、ある人に事務系の仕事の実習をやっていただきました。面白くなさそうな顔をしていました。次に物作りのラインに入ってもらったら、見違えるように顔色が変わりました。希望で職種を選んでいただきましたが、事務系の仕事は本人ではなく、親御さんの「思い込み」という意向があったようです。
できる、できないは教えるほうにも問題がある場合があります。本当に伝わっているか、相手に確認がいります。くどいくらいの確認が必要だと思います。「わかっているはず」「あの時に言ったのに」「ちゃんと言いました」など。それでは理解されているかわかりません。指導する側も工夫していく点は多いと思います。

我々が感じていることを話します。
学生時代は一杯いろいろなことをやって、失敗してきてほしいです。会社に入ってからの失敗はみんなでカバーをしなければなりません。また失敗を恐れないように慣れておいてほしいということです。
失敗体験を積む、あいさつや規則正しい生活ができるなど、基本行動ができるといいです。
それから、企業のことをもっと知ってほしいとも思います。本人、学校の先生、保護者に知ってほしい。見学や問い合わせて情報収集につとめてほしいと思います。

定着に向けた取り組みについては、企業の場合、新卒者は定年まで50年近くの長い間、元気に機嫌良く、能力を発揮してもらいたいと思っています。受け入れ側の環境整備ということで弊社は障害に関する勉強をしています。具体的にはコミュニケーションマニュアルを作っています。これはさまざまなところで発行している資料をまとめたマニュアルです。
外部の講師を招いた勉強会も行っています。
定着のサポート体制については、核になるのは生活相談員が12人います。100人中12人なので、9人に1人の割合です。この方たちを中心として健常者、障害者関係なく割り振ってポイントをあげて見回りをします。「こんなことはおかしい」と思った時は相談員に相談してもらえれば内容に応じて対処を考えるシステムとなっています。昨年11月から始め、ちょうど1年がたったところです。

内容によっては、外部の支援機関や医療関係などと連携しながら、早めに問題を摘み取る態勢になっています。これは外部との連携を表した図ですが、生活面については会社で把握しにくいので、支援機関さんにゆだねるケースが多いです。

社員の感想について話します。この方は、発達障害です。入社4年目で31歳。業務はコピー機の故障修理などです。先月、本心で書いてもらったことです。この方は前職の時には、クローズで就職しましたが、残念ながら続きませんでした。いったん、自宅にこもっていましたが、就労移行支援を受けて弊社に入社しました。4年働き、感じたことを良い支援、悪い支援として書いていただきました。悪い支援のこれは「配慮はしてくれているが、タイミングによってはQCD(生産技術)のほうが優先されると感じている」という意味です。例えば、納期が迫っていたら「もう少し頑張ってやってほしい」と言われるが、社員によってはやる気にばらつきがあり、ふと横を見ると、のんびりしている人もいると感じ、だんだん自分がしんどくなってくると書いてあります。

良いところは、SOSを発信すると配慮してくれる。SOSも出しやすいと書いてあります。
この方が就職されてからの支援機関に感じていることは「たまに連絡が遅れるがカウンセリングしてくれる。絶妙のタイミングの時がある」と書いてあります。うれしいタイミングで悩みを聞いてくれ、判断の悩みが安心感に変わる。会社では話しにくいことも、よく聞いてくれる。これが就労の定着に効果があると言われています。

まとめると、就労前は障害の理解を促してくれた。適性に応じて訓練をしてくれた。就労後は、何気ない声かけや付かず離れずの距離感がうれしいとなっています。支援機関の良いと思うところは一緒に考えてくれる。場合によっては会社に言ってくれるのでうれしいと言っています。

最後になります。
キャリア教育支援活動ついて紹介をさせていただきます。元々、親会社がキャリア教育を2006年にスタートさせ、小学生を対象にした「環境教育」などをしてきました。2012年から対象と分野の拡大で特選にも特別支援学校へのキャリア教育ということで3つのコースを設定し、活動を開始しています。見学、職場実習、出前授業があります。

出前授業については、全国の106校ある支援学校を順次訪問するというものです。スタートは聴覚障害者の生徒を対象に同じ障害のある社員の話を聞いてもらっています。グループワークという簡単な作業もしてもらいます。2012年から北海道から鹿児島まで66校に訪問しました。2014年からは聴覚障害プラス知的障害も対象に大阪府内で4校訪問しました。徐々に知的障害を対象に活動範囲を広げていきたいと考えています。

以上でお話は終わりたいと思います。職場見学、実習など、要望があれば対応させていただきたいと思います。生徒、支援者、保護者、先生、ウエルカムです。
以上です。

質疑応答
Q.特選工業から転勤で違うシャープグループの会社で勤務した例はありますか?
A.ここ数年、そのようなケースはありません。今後はそのような働きかけもしていきたいです。

社長の立場として、入社前につけておいてほしい力があると言いつつも、職場の中で自然に人材育成をされていることが伺えました。本日はどうもありがとうございました。